アスベスト(石綿)関連疾患について

蓑輪 一文宮崎生協病院
内科 呼吸器科

日本内科学会
日本呼吸器学会
日本環境感染学会、ICD
日本アレルギー学会

蓑輪 一文 (みのわ かずふみ)

アスベスト(石綿)関連疾患について

平成16年6月末に大手農機具メーカー「クボタ」から「アスベスト(石綿)関連の労災死亡79名」といった衝撃的な発表がありました。それを皮切りに大手石綿製品関連会社から同様な報告が相次ぎ、「アスベスト」、「中皮腫」は流行語となった感があります。その健康被害は直接石綿を扱う労働者以外にその家族,工場周辺の地域住民にまで及んでおり,さらに石綿が建材として身近に,ごく最近まで使われていた事実がわかると、全国的なパニックを引き起こしました。

そもそも「中皮腫」は非常にまれな疾患と思われていましたが、全国集計されるにつれ、その数の増加に驚かされます。平成14年には全国で800名以上の方が中皮腫で亡くなっています。そもそも「中皮腫」とはどんな病気でしょうか。

胸部にある肺や心臓、腹部にある胃腸や肝臓などの腹部臓器、精巣(睾丸)は、それぞれ胸膜、心膜、腹膜、精巣鞘膜(せいそうしょうまく)といった膜で包まれています。これらの表面をおおっているのが中皮であり、この中皮に発生する悪性腫瘍(つまりガン)が中皮腫です(図1)。その約八割は石綿を吸ったことが原因とされ,しかも吸入量が少なくても発症する危険性を持っています。潜伏期間は石綿の吸入から平均30年~40年(最短11.5年)とされ,発症年齢は60~65歳が最も多く、「静かな時限爆弾」ともいわれています。中皮腫は発見が遅れがちとなり,いったん発症してしまうと早期での手術以外有効な治療はほとんどありません。胸膜あるいは胸膜と肺組織を一緒に切除しますが,手術の不可能な場合は放射線も抗癌剤もほとんど無効です。

アスベスト関連疾患

人類が石綿を使いだしたのは非常に古く、エジプトのミイラ梱包の布、平安時代の竹取り物語では「火鼠の皮衣」として登場しています。石綿はその名の通り、石(いし)の綿(わた)で、軽い綿状の性質があります。石綿(アスベスト)製品を見ると、石綿繊維らしきものが直径0.5ミリで長さ1ミリ前後の細かい繊維として見えることがあります。これは直径0.1~1ミクロンの何千本の繊維が「よ(撚)りあわさって」一本に見えるにすぎません。石綿繊維は,数十キロ先の山から飛散する直経数十ミクロンのスギ花粉より小さいサイズです。石綿の繊維である性質は様々な形に加工しやすく、吸音や吸着性、引っ張る力に強く、また石である性質は、断熱性、耐火性、電気絶縁性、耐酸性、耐アルカリ性といった利点があり「奇跡の鉱物」と呼ばれていました。一方で、眼に見えない大きさで容易に飛散し,いったん肺に吸入されると分解されず、肺の免疫を担当する細胞が死滅するという欠点もありました。また石綿は固有のものではなく、繊維状をした鉱物の総称です。代表的なものに青石綿(クラシドライト)、白色石綿(クリソタイル)、茶石綿(アモサイト)があり、特に青石綿は発癌性が強いといわれています。

1943年のドイツ(ナチス時代)ではアスベスト+中皮腫で既に労災認定がなされ、1972年にはILO、WHOが石綿の発癌性を確定し、1989年にはアメリカで建物から石綿が一掃されています。一方わが国では1975年に石綿の吹き付け原則禁止、1992年に青石綿の輸入禁止となり、輸入量も減少しはじめましたが,2004年にようやく石綿製品製造の全面禁止がなされました。しかしながら、在庫分には法律が適用されず,すべてなくなるのは2008年以降といわれています。

石綿への暴露は、石綿鉱山、石綿製品製造、造船、配管、ボイラー、機械修理、建築・解体などの業種が大きいと考えられています。中でも今後問題となるのは石綿吹きつけを始め、外壁、内装に石綿を使用した建物が解体される時期がくることです。今後,中皮腫はもちろん,石綿関連疾患としての肺癌も,喫煙と相乗効果を示し,爆発的に増える可能性をはらんでいます(図2)。

アスベストと喫煙の相乗効果

中皮腫,肺癌以外の石綿関連疾患として、石綿肺(肺線維症)、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚(プラーク)があります。いずれも石綿への暴露期間、検査所見、症状など一定の基準に応じて労災認定される可能性があります。わたしたち鹿児島医療生協でもこの間トンネルじん肺の診断、治療、労災認定を手掛けてきました。そのノウハウを生かしながら石綿関連疾患にも取り組んでいきたいと考えております。

 

九州社会医学研究所ホームページ
アスベストセンターホームページ
産業保健ハンドブック「石綿関連疾患」、厚生労働省補償課監修、産業医学振興財団発行

 

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